妄想(BPSDの対処法)

  • 2012.10.12 Friday
  • 08:00
妄想は「外的現実についての間違った推理に基づく不正な確信」「患者の知能や文化的背景に一致せず、正しい論証によって訂正できないもの」と定義されています。(認知症テキストブック)

幻覚の項で記載したように幻覚に伴う妄想もあり、介護者の多くは幻覚と妄想を混同していることが多いです。
また「認知症疾患治療ガイドライン2010(第3章 認知症への対応・治療の原則と選択肢)」でも、Q.「認知症者の幻覚・妄想に対する有効な薬剤はあるか」と項目が起こされているように、一緒に扱われています。
ただ幻覚(幻視)の項で述べたように、幻覚の種類によっては使用する薬剤が異なるので、幻覚と妄想は正しく診断した方が良いと考えています。

また興奮(agitation)等の他の陽性・心理症状他と合併することが多いとされています。

また定義にあるように「訂正できないもの」なので、説明や説得することは多くの認知症患者にとって無意味であるばかりでなく、有害です

「物盗られ妄想」「見捨てられ妄想」など介護者との人間関係悪化に繋がることが多く、早期に対処することが必要です。
妄想の内容は体系化することは少なく、内容も変化しやすいです。
一般的に周辺症状に対する介護での対応を行うことになりますが、改善しない場合が多く 薬物療法が必要になることが多いです。
しかし薬物療法も調整が困難な例が多いです。
私は「介護者の心を折る」と表現していますが、介護者にとって身体的負担より精神的負担が大きく介護意欲を大きく削ぎます。そのため介護施設入所や精神科病棟への入院の原因となる代表的な周辺症状です。

【病期・基礎疾患による妄想の特徴】
妄想は幻視と異なり、病期による頻度の違いは不明です(論文を見つけられていません)。
 自験例では幻視と同様に、重度よりも中等度の方が多い印象です。
 定義((間違った)推理に基づく不正な確信)でも述べられているように、間違っていても推理することができる時期にしか妄想は出現しません。
 中核症状が進行すると「推理」出来なくなりますので、妄想も消失すると考えています。

基礎疾患としては、レビー小体型認知症(DLB)で頻度が高いとされています。
アルツハイマー病(AD)、脳血管性認知症(VD)の順に多いとされています。
頻度は論文により大きく異なり、ADで10〜73%の患者に認められるとされています。
自験例では、薬物療法が必要であった妄想は約10%の認知症患者に認めました。

【代表的な(頻度の多い)妄想とケア】
・物盗られ妄想
 妄想の中で最も頻度が高い(18〜43%)ものです。
 ボールペンなどの日常的な物の場合もありますが、通常は財布や通帳など大切なものの頻度が高いです。日常的な物では、眼鏡の頻度が高かったです。(←自験例)
 盗られたと思っている物を介護者が見つけて患者の所へ持っていくと、介護者が盗んだと考える場合が多く、介護者が盗んだ(介護者は泥棒である)という新しい妄想を生むことがありますので、「介護者が見つけて患者の所へ持っていくこと」は避けるべきです。
 介護者が先に見つけた場合には、患者と一緒に捜して一緒に見つけるようにしてください。
 物盗られ妄想を軽減(大切な物を無くさないように)するためには、
 ・財布などは決まった場所に置くようにする。(←繰り返し指導することで、習慣として財布を同じ場所へ置くようになることがあります)
 ・通帳などは鍵のかかる場所へ置くようにする。(←これだけで治まることがあります)

・見捨てられ妄想
 妄想の中で、物盗られ妄想に次いで頻度が高い(3〜18%)ものです。
 介護施設に入所している患者では、自宅で療養している患者よりも頻度が高い印象があります。(残念ながら妄想ではなく、家族に見捨てられている方もいらっしゃり、一概に妄想と片付けられません。)
 判断能力がいくらか保たれている時期に認められることが多い妄想です。
 他の家族の会話が理解できなくなっていたり、自分の介護が負担になっていると邪推したり、家族に無視されるなどのエピソードが影響していることがある。
 本人に可能な範囲で「したいこと」「できること」をしてもらい、それを評価し、本人がなくてはならない存在であることを伝えることで、軽快する場合がある。

・「ここは自分の家ではない」という妄想
 自宅にいる場合と介護施設にいる場合では意味が異なります。
 自宅にいる場合に、見当識障害や逆行性健忘に基づくことが多く、修正は不可能な場合が多いです。
 以前、住んでいた家を自宅と思われる方が多いです。
 帰宅願望・徘徊(自宅へ戻ろうとする)の原因となることが多く、徘徊対策が必要になります。
 介護施設にいる場合は、「介護施設は自宅ではない」ので妄想に分類して良いかどうか疑問です。ただ、実際には「(一人ではもしくは現状の家庭環境)では自宅で生活を継続することは困難である」のに「自宅で生活できる」と判断していることは、ある意味で妄想と判断しても良いと考えています。
 介護施設に入所している場合は自宅にいる場合より、帰宅願望の頻度は高いです。
 帰宅願望、徘徊に繋がることがあります。
 帰宅願望に対して「もう遅いから明日にしましょう」「迎えの人が来るまで待ちましょう」などと対応し、「話を逸らす」ことが有効なことがあります。
 
・「配偶者あるいは介護者は偽物だ」という妄想
 あまり経験しない妄想です。
 但し、この妄想を認めた場合には対象者(ほとんどの場合、介護者が対象になる)を精神的に追い込むことになるので、早急な対処が必要です。
 薬物療法、もしくは介護施設へ入所し介護者から離す必要がある場合が多いです。
 有効なケアはありません。
 介護施設では配偶者ではない人を配偶者と思い込み世話を始めるといった、誤認がありますが、薬物療法が必要になることはほとんどありません。

・「不義」という妄想
 配偶者(あるいは他の家族・介護者)が性的もしくは他の意味で不実を働いていると思い込むものですが、私は経験したことがありません。
 外出時に、行き先を伝える(紙に書いて渡す)、その間に誰かに付き添ってもらうことで軽減することがあるとされています。

【妄想への対処法】
介護者への説明がポイントとなります。
 ・内容が被害的なものでない場合や、本人に不安がなければ介入は不要です。
 ・内容が被害的なものの場合や、本人に不安があれば、介入は必要です。
  ケアで対処可能な場合もありますが、前述したように多くの場合は薬物療法を考慮します。患者のケアのみならず、介護者のケアにも留意が必要です。
  幻覚の場合と異なり妄想は、内容が被害的なものでない場合や、本人に不安がない場合でも、介護者の(精神的)負担が大きい場合には薬物療法を考慮します。

 ・ケアの基本は妄想を否定したり、安易に肯定したりすることはせず、患者の訴えを傾聴し、受容的・共感的な態度で接し、安心を与えることです。
  しかし通常、患者は介護者に対して繰り返し妄想の内容を訴えます。
  毎回、同じ内容の応答でも良いとされていますが、この繰り返しも介護者の精神的ストレスとしては小さくないものです。
  家族が介護している場合には家族関係が壊れてしまいますので、早急な対処が必要です。
 ・前述したように、認知症が進行し「推理できなくなる」時期には、妄想は消失することを、介護者に伝えるようにしています。
  妄想の強い時期をグループホーム等の介護施設で過ごし、妄想が消失すれば自宅へ戻れることがあることを家族(介護者)に伝え、一時的な介護施設の利用を勧めることもあります。

【妄想に対して有効とされている薬剤】
リスパダール(リスペリドン)、ジプレキサ(オランザピン)、エビリファイ(アリピプラゾール)等の非定型抗精神病薬です。
いずれの薬剤も原則的に保険適応外ですので、注意が必要です。

但し、リスパダール(リスペリドン)とセレネース(ハロペリドール)は、平成23年09月の厚生労働省保険局医療課長通知「医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱いについて(保医発0928第1号)」によって、「当該使用事例を審査上認める」とされています。

(※)当院の認知症診療は中等度・重度の患者が中心であり、その経験に基づいて記載しております。そのために教科書的な比率等と異なる場合がありますので、成書もご確認ください。
コメント
コメントする








    
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
<< October 2020 >>

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM